中学校の時、ぼくは人生において
最初で最後であろう犯罪をおかしました。


それは万引きです。


当時、内気であまり人と関わることが苦手だったぼくが
友人とのつながりを保つにはこういう手段しかなかったのです。



中学校当時Gショックという腕時計が非常に流行ってました。
その時計をしてるということが一つのステータスだったのです。


万引きをする前、悪いことだとわかっていたぼくは、
一応両親に相談もしました。


「買って欲しい時計があるんだけど…。」


もし買ってもらえれば、それを友人たちには
「盗んだってことにすればいーや」そう考えていたのです。
しかし両親には


「高すぎる。それに腕時計なら中学校にあがるとき
入学記念におじいちゃんが買ってくれたのがあるでしょ?」


ぼくは
「あんなんじゃねーんだよ。あんなもんカッコ悪くてつけてられるかー!」

おじいちゃんからもらった時計を叩き付け、泣きながら家を飛び出しました。



この場に居合わせていたおじいちゃんはどう思ったのでしょう。
ただ、ただ、黙ってたたずんでいるだけでした。

あの時の寂しそうなおじいちゃんの顔は今でも鮮明に憶えてます。




そして、家を飛び出したぼくはその足で、ザ・プライスというお店に向かってました。
ザ・プライスっていうのはいわゆるディスカウントショップです。


その時の心情は
「俺だって、俺だって・・・」
っていう気持ちだけでした。



Gショックにはいくつか種類があり、ねらいを決めたのは
その中でも当時流行っていたイルカクジラモデルというペアものでした。

「これを取れば、これを取れば・・・」。

30分ほど静かな時間が過ぎました。
意を決して行動に移した自分。




気付けば警察の少年課にいました。

「何やってんだよ、俺は…」

悔しさと切なさでまた、涙が出てきました。


両親、それとおじいちゃんが迎えに来てくれました。
普段はあまり多くを語らないおじいちゃんは、
その時、誰よりもぼくの変わりに頭を下げてくれました。


そして帰り道、ぼくがさっき叩きつけて壊れてしまった腕時計を
そっと着けてくれたのです。

「いいか、この時計は針が止まってしまってる。だけどな、
壊れた時計だって一日に2度正しい時間を指すんだよ」



僕はその言葉のあたたかさにまた、涙しました。
一日に3度も泣きました。

しかしこれまでの2回とは違う前向きな涙を。
涙でかすんだぼくの時計。


イルカモデルでもなく、クジラモデルでもない。
おじいちゃんモデルの腕時計。
今も大切に使ってます。




この物語は週間ストーリーランドに送ってたら最終選考まで残ったであろう作品です。